”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”最高の人生のはじめ方”(12年)

どうも日本の配給元は柳の下のどじょう狙いじゃないが偏った邦題が好きだ。この映画だって原題は"The Magic of Belle Isle"と言って”ベル島のマジック”なんだが無理やりこんな邦題を、、そりゃ監督のロブ・ライナーはこれまでに”最高の人生の見つけ方”("The Bucket List”)や”最高の人生の作り方”(”And So It Goes”)等と撮っているのでそれに肖ったんだろうがナンともこの独創性の無さは情けない。

映画はモーガン・フリーマンが主演で心がホッコリする、、と映画案内に書かれているようにホンワカした映画だ。思い出すのはケビン・コスナーが元プロ野球の選手だったという設定で主演した”ママが泣いた日”とかなりダブる、、このママが泣く方は原題が”The Upside of Anger”と言って”怒りの原点”みたいなタイトルだったのに邦題ではママを泣かせてしまった。

 

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ママが泣いた方はシングルマザーで四人の娘を育てていたがこっちは同じような設定で三人娘を育てているシャーロッテ(ヴァージニア・マドセン)、その隣の家へ風変わりなおっさんがやって来る。それが車椅子でしかも左腕が使えないワイルドホーン(M・フリーマン)だ。

風光明媚で目の前に湖が広がる場所、夏の避暑地と言う雰囲気でワイルドホーンは夏の短い期間だけ家主に愛犬、リンゴの面倒を看る事と言う条件でやって来るのだ。笑っちゃうのは4匹の愛犬がいてワイルドホーンが面倒を看るのはリンゴで他のワンコはポール、ジョン、ジョージと言うらしい。

そしてこのワイルドホーンは無類のアルコール好き、、と言うか殆どアル中で以前はかなり著名で人気作家殿だったそうな。若い頃には野球選手でメジャーにも呼ばれる寸前だったのが酔っぱらい運転の犠牲になり野球選手生命を絶たれ車椅子生活に、、そして最愛の奥さんは6年前にガンで死亡、それ以来作家活動にも意欲が失せてしまい人生の目的も無くしている。

そんな爺さんが4人家族の隣に越して来て娘たちとの交流が始まり離婚訴訟中のママの慰め役も演じ、最後には最高の人生の、と言うか”最高の終の棲家”を探し出すと言うストーリーである。中でも真ん中の9歳のフィネガンを演じたエマ・ファーマンが実にあどけない中にも女優らしさがあって適役だった。

ワイルドホーン爺さんと交流する中でも彼の作家としての博識振りに感化され一番良い影響を受けるのがフィネガンで彼が一躍売れっ子作家としての地位を確立した作品を古本屋で買い込んだり最後のページが紛失してて結末が判らないと駄々を捏ねたりする。こりゃ将来が有望だな、とワイルドホーンもびっくりする程に感性が豊かで教育し甲斐もあるのだ。3人の娘は事ある毎に父親に会いたい、、と母親を困らせていたのが何時の間にかすっかりワイルドホーンの魅力に取りつかれてしまう、。

終盤にはお酒も絶ち作家活動もそろそろ再開するか、、と言うところで夏も終わりを告げこの借家からもリンゴからも去って行く事に、まあ今度はメキシコ辺りでのんびりするさ、と4人にも別れを告げて町を後にする、。

そんな一家との交流劇でもう見ていてもウラヤマシイくらいだ。そして最後にもう一捻りが、、ずっと断っていた原作、西部劇シリーズの映画化権を売却する事にしてこの湖畔のキャビンハウスを購入して戻って来るのだ。売却の条件として犬のリンゴも付いて来る、、って事で見事なセンター返しでクリーンヒットしたようなハッピーエンディングで御座いました。でもやっぱり邦題は”最高の終の棲家のみつけ方”じゃないのかな?

 

 

 

 

 

”北北西に進路を取れ”(59年)

久し振りに遭遇したヒッチコック監督の名作だ。字幕付きで見るのは恐らくうん十年振りじゃなかろうか?映画はサスペンス&スリラーの巨匠としては”サイコ”や”鳥”等の恐ろしい恐怖映画とは違いむしろスパイ系のお話でまさに”間違えられた男”がエスピオナージに巻き込まれてしまうと言う設定だ。

タイトルになっている”North by Northwest”は現実には方位としては存在しない方角なので監督は実際には何を言わんとしたのか、個人的には劇中、空港での場面に今はもう存在しないノースウェスト航空のカウンター前でのやり取りがあり、その場面を引っ掛けてタイトルを”北に向かう”、”ノースウェスト航空機で、”だったんじゃなかろうかと解釈している。

 

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この映画を再見してかのイアン・フレミング爺(007シリーズの原作者)はやはり映画化に際してジェームス・ボンド役をこのケイリー・グラントをイチオシ俳優としていた事が理解出来る。原作ではそのボンドが登場する場面、”188cmと身長が高く、黒髪で頬に傷跡、身のこなしが優雅で年齢は38歳、、キングスイングリッシュで苦み走った冷酷そうな唇で女性好き”と記述されている。最終的にはショーン・コネリーに落ち着いて映画化されたのだがそのショーン・コネリーのボンド役には原作者としても大満足だったそうな。

劇中ケイリー・グラントが演じるのは広告代理店のやり手、二度の離婚歴があるのだがスパイとは遠く離れた存在だ。それがひょんな事から悪党組織と派遣されて来た殺し屋二人に間違われ拉致されてしまう。その舞台はニューヨークでプラザホテル内、其処から思いもしないスパイ合戦にハマってしまうロジャー・ソーンヒル氏(C・グラント)の”ノースウェスト”行きとなる。

お相手はヒッチコック監督お気に入りのエヴァ・マリー・セイントで彼女は悪玉、ヴァンダム(ジェームス・メイソン)の情婦役でイヴ・ケンドールだ。ロジャーは郊外の豪邸に連れ込まれ白状しろと強要されるがナンの事かさっぱり、最後には無理やりウィスキーを飲まされ飲酒運転を装い崖から転落して一巻の終わり、となるところを窮地を脱するが警官に酔っぱらい運転容疑で身柄を確保されてしまう。

確かに今見れば映像の信ぴょう性やスピード感はなく早送りの撮影だがプロットが実に巧みで見ている側は理不尽なソーンヒルの扱いに憤慨するし終始ドキドキさせられる。そんなソーンヒルはNYの国連本部へ出向き先に連れ込まれた豪邸のオーナー本人に事情を問いただそうとするが尾行して来た殺し屋の一人にオーナーのタウンゼント(因みに演じたのはフィリップ・オバーでかの”地上より永遠に”でホームズ司令官を演じていた)が殺害されてしまいその場面が新聞のトップで報道されてしまう。そして今度は自身が警察に追われる立場に、、。

そして追われながらも残された手掛かりを手繰ってシカゴへ向かう、警察の手配を逃れる為に列車で行くのだが其処へやっとこさ登場して来るのがイヴ(E・M・セイント)である。この出会いの列車内でのシーンは実に興味深い、、追って来た警官から身を隠す為に車内の個室のベッドに隠れるがその後、食堂車に移り会話の中で、イヴが I never discuss love on an empty stomach と言っているし字幕にも”空腹じゃ愛は語らない”と出ているがイヴの口の動きから察するにこれは I never make love と言っているのだ。要するに”空腹のままセックスはしない”って意味なのでこのイヴってのはかなりススんだ女性って事が判るのだ。

後年、007の”カジノロワイヤル”でこっちはエヴァ・グリーン扮するヴェスパーがジェームスと交わす会話がこれまた実にドキドキさせるものだったが監督のマーティン・キャンベルは”北北西に進路を取れ”のこの列車内場面を見ているんだろうな、、第一両方とも最初に女性が登場して来るのが列車内のシーンだし意味深なセリフまでそっくりだ。別に知ったからと言ってオレの寿命が延びる訳でもないのだがこうして何回となく同じ映画を見ているとセリフじゃ固有名詞なのに字幕では全然違っていたりと毎回楽しむ事が出来る。やっぱり”オールド・シネマ・パラダイス”って事に落ち着くようだ。

 

 

 

 

 

”マリゴールド・ホテルで会いましょう”(12年)

こんな映画は三度の飯より大好きだ、、原題は”The Best Exotic Marigold Hotel"でそのホテルが建つのはインドのジャイブールだ。其処を目指してやって来るお客さんが全員イギリスからで皆さん訳アリだ。

 

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監督は”恋に落ちたシェークスピア”や”至上の恋”を手掛けたジョー・マッデンでこの成功から同じ配役で続編も監督している。まあ一種の群像劇ではあるのだが遥々インドへやって来る皆さんは何かしら問題を抱えている。それでもイギリスから見ればインドは物価も安いし、気候も良いし、、(ちょっと暑過ぎかな?)イギリスからだと比較的簡単に移住が可能らしい、。

そして宣伝広告に吊られて”エキゾチックな雰囲気満点のマリゴールド・ホテル”を目指して自分の家や財産を売り飛ばしやって来るのだ。ところが来てみるとムンバイどころかトンでもない僻地で延々とバスを乗り継がないと辿りつけない、、しかもそのホテルたるやオンボロ・ホテルでこれから改修を経て生まれ変わる前の姿だと判る。

そんな劣悪な環境のホテルへやって来てしまうのがイヴリン(ジュディ・デンチ)そしてダグラス(ビル・ナイ)とジーン夫妻(ペネロープ・ウィルトン)、ミュリエル(マギー・スミス)とグレアム(トム・ウィルキンソン)、更にはマッジ(セリア・イムリー)にノーマン(ロナルド・ピックアップ)と言う”マリゴールドの七人”だ。

現地のホテル側からはソニー(デーヴ・パテル)、彼の恋人がスナイナ(ティナ・デサイ)、ソニーのママ、カプール夫人(リレット・デプイ)が迎えてくれる。

まあ兎に角、映画の出だしから笑わせてくれる、。まず登場人物全員の背景が語られるのだがこの設定が実に巧みだ。セリフの節々から笑える演出で派手な動きはなしでも彼らの性格までしっかり見ている側には判るって寸法、全員がホテルを目の前にして失望する場面には気の毒で同情出来る。それを口八丁手八丁のインディアン特有の言い回しで納得させようと努力するソニーの舌ったらずの英語がこれまた実に可笑しいのだ。

中にはこれは詐欺だ、、と言って帰ろうとする者もいるが長旅で既に支払いは終わっている、、そのままUターンする訳にも行かず全員が部屋を割り当てて貰い共同生活を余儀なくされる。そんなお話でストーリーが進むにつれて夫々が自分の置かれた立場をわきまえてこのインドの土地での新生活を受け入れて行くのだ。

同時にホテルのオーナーでもあるカプール夫人と支配人として将来を見据えている息子のソニーに彼の恋人、スナイナの絡みがどんどん発展して行く、、ママは息子の嫁は名家の娘をと目論んでいるのだがそうは簡単に物事は進んで行かないのだ。この辺りの展開は例えインドと言えども日本となんら変わところがない、。

先の”七人”がメインのお話だが終盤へ来てこりゃやっぱり続編を作らないと終われないじゃないか、と納得してしまう。こんな映画は是非吹き替え版なんぞに頼らずに生の声とセリフで楽しんで貰いたい。オーストラリアじゃ爆発的大ヒットとなりロングランを果たし、続編が公開された時は長蛇の列だった、、。

 

”ザ・ロック”(96年)

こりゃ1996年に公開されたアクション映画で原題は”The Rock”、主演にショーン・コネリーそれにニコラス・ケイジエド・ハリス、、監督がマイケル・ベイだった。ショーン・コネリーはもうとっくに還暦過ぎで元英国情報部員役、007が引退したって事か?それが脱獄は不可能と言われたアルカトラズ島から脱走した唯一の人物、メイソン役そして化学兵器を扱うプロの科学者にニコラス・ケイジ、その二人が共同してアルカトラズ島へ忍び込みテロ軍団を壊滅させると言うお話だ。

 

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敵の首謀者がエド・ハリスで海軍の精鋭部隊シールズの隊員を先導して島を占領し観光客たちを人質にして戦場で死んだ部下たちへの慰霊金として1億ドルを国へ要求するって筋書きになっている。この身代金(動機)の理由からしタリバンとか他国のテロ組織が関わっている訳じゃないので何となく彼らには同情したくなるのだが、、。

最初は海軍シールズの一個分隊が空からの攻撃を仕掛けるが敢え無く撃退されてしまいメイソン(S・コネリー)はイヤイヤながらFBIの依頼でスタンリー(N・ケイジ)と二人で海からの潜入を試みる。

このアルカトラズ島は多くの映画で背景に使われている。サンフランシスコ湾に浮かぶちっこい島で実際に刑務所として機能していたが1972年には閉鎖され観光客用の施設として一般公開されている。サンフランシスコ市から僅か3kmもない距離に浮かぶ島だが潮の流れが複雑でしかも水温がかなり低いらしい、、確かにサンフランシスコの海際にキャンドルスティックと言う野球場があるのだが真夏でも夜は10度を切る程に寒く、海水浴なんてのはもっての外だった。

映画としてはごく平均的な作品でショーン・コネリーニコラス・ケイジの米、英語対比は笑える場面もあったような、、悪い側になってしまったがエド・ハリスベトナム戦線とそれ以降の戦闘で数々の手柄を立てた准将役、部下思いが募ってこの暴挙に出るのだが終盤、部下だった連中との折り合いが悪くなってしまい仲間割れになるのが想定外だった、。

 

 

 

 

 

 

 

”マージン・コール”(11年)

この映画の背景はニューヨークの大手商品取引金融機関であの世界を震撼させたリーマン・ブラザースの金融危機顛末をモデルにした映画で原題もそのまま”Margin Call”だ。本国ではかなり評判は良かったのに日本では劇場公開される事もなくいきなりDVDデビューになったらしい。

ある金融機関でいきなり解雇を宣言されるのが危機管理部門で責任者を勤めていたエリック(スタンリー・トゥッチ)で私物をまとめて出て行く時に信頼出来る部下にUSBメモリーを渡して去っていく。

 

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そしてそのUSBには会社が保有する全資産と過去の取引データ、それに伴う資産運用実績が記されていた。エリックは自分なりにかなり詳細にこのデータを分析していたようでやりかけだった計算式を進めて行くと何と会社が保有する全資産が近いうちに25%も下落してしまう事が判る。

事態は急を要する、そこで直属の上司サム(ケヴィン・スペーシー)に進言し解決策を講じる事になるのだが今度は危機管理部門の専門家サラ(デミ・ムーア)にも話が行き更に上層部に進言する。

その次に登場して来るのが統括責任者のジャレッド(サイモン・ベイカー)で真夜中になって常任役員会を招集する事になる。そして又、経営トップのジョン(ジェレミー・アイアンズ)が深夜ヘリコプターでビルの屋上へ到着、、っと次から次へと会社の首脳陣が集まって来るのだ。この辺りの演出は実に巧みで最初は疑念を抱いていた分析結果が何時の間にか現実のものとなり全員が対処方法を練り直す。

既に夜中の2時半でそれから最初にUSBを作成したエリックを連れ戻すべく自宅へ急行するのだが本人は”オレはもう首になった人間だ、君らで対処しろ”と冷たく断られてしまう。そして夜が明け、朝からが勝負だ。役員会の承認事項として損金を出しても何とか不良債権を売ってしまえ、と言う指示にトレーダーたちは一丸となって取り掛かる、、即ちこれがリーマン・ショックの前兆と言う訳だ。

確かに日本じゃ公開されなかった理由は判る、、でも配役は適格でケヴィン・スペーシーやジェレミー・アイアンズ、それにデミ・ムーアも存分に存在感を示している。そもそもアメリカ、、だけじゃなくて金融取引の仕組みが理解出来ないと混乱するが要するに自社が保有している財産以上に不良化しそうな債権を保有しているのでそれをある程度売却しないと会社の存続が危うくなる、と言うお話だ。

僅か一日半の出来事に過ぎないがこうして”ババ抜きのババを他社へ売買”した事からかつてない金融危機アメリカを中心に広がり他国へも飛び火した事は事実である。まあ日本でも証券会社が先物買い投資で失敗し焦げ付き発生って事があるがそのスケールがデカくなるとこんな事態が起きてしまう。

配役も良かったし緊迫感ある内容は期待以上に楽しめた。