”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”ハッド”(63年)

公開されたのが63年、もう57年も前の映画だ。画面はモノクロ、撃ち合いもないし、カーチェイスもない、、派手な展開は一切ない、、それでもすこぶる付きの秀作である事は間違いない。

恐らく今の若者はこの展開、112分の上映時間には我慢出来ずに途中でスマホを取り出しているだろう。主演はポール・ニューマンパトリシア・ニールメルビン・ダグラス、、そして重要な役どころにブランドン・デ・ウィルデが出ている。あの”シェーン、、カムバーック、!”と叫んでいた坊やだ。53年の”シェーン”から10年後の作品、立派な若者としてハッド(P・ニューマン)の甥っ子を演じている。

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パトリシア・ニールはこの映画の2年前に”ティファニーで朝食を”でイヤミなおばちゃんを演じていた。此方では妖艶な姿態で男所帯のハッド一家で”飯炊き女”としてこれまた重要な役どころだ。64年のアカデミー賞ではパトリシアが主演女優、メルビンが々助演男優賞を受賞、ポールはノミネートはされたのだが惜しくも”野のユリ”のシドニー・ポワチエにさらわれている。監督はマーティン・リット、この翌年、再度ポール・ニューマンと組んで”暴行”(黒沢監督の”羅生門”のリメイク)を撮っているし65年にはワタシがこよなく愛する、ジョン・ル・カレ原作の”寒い国から帰ったスパイ”も撮っている。

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映画の背景はテキサスの広大な農場、牛追いを家業とする農場主のホーマー(M・ダグラス)は男やもめで次男のハッド(P・ニューマン)、長男の息子ロニー(B・D・ウィルデ)、そしてアルマ(P・ニール)と暮らしている。

そのハッドは昼間っから酒浸り、夜も出掛けちゃ飲み屋、女狂いとどうにも始末に負えない。そんなハッドを心から頼り切っているロニーはまだ17歳だが誘われて一緒に出掛けるのが嬉しくてしょうがない。町の本屋で手に取ったベストセラー本が何と”地上より永遠に”、店主に”オマエそれ読んだか?”っと言われ、”あの軍曹と人妻が出会う場面はスゲーな?”とか言われている。最も映画じゃなくて原作の事なんだが、、。

そんなで映画はこの傍若無人振りのハッドをじっくりと追う展開が続く、ところが平坦だった(酔っ払いのハッドは別にして、)映画に大きな変化が、。それは飼っていた牛に狂牛病が発覚してしまうのだ、どうやらホーマーがメキシコから安く仕入れた牛が感染していたようで州政府から検査員がやって来る。数週間後の検査結果は、飼っている全頭の殺処分を通達されると言う最悪のシナリオに、。

相変わらず折り合いの悪いハッドと父親だがやっと何故長男が居ないのかが判明する。ハッドの酔っ払い運転が原因で同乗していた長男が事故死、ハッドだけが助かったと言う経緯が語られる。当然これが父親との確執の根底になっていてそれ以来ハッドも酒がやめられない、、と言う訳だった。そんな中での全頭処分でハッドはこれ幸いと農場を売って石油採掘でもさせようと独自に弁護士と相談を始めている、。

こんな展開、、まさにこれがポール・ニューマンらしい演技なんだが映画を再見しながらもしこのハッド役をマーロン・ブランドがやっていたらどんなだったか?待てよモンゴメリー・クリフトやジェームス・ディーンはどうだろうか??っとよからぬ方向へ想像力が向いてしまった。それにパトリシア・ニールだって仮にアンジー・ディッキンソンが演じてても良かったんじゃなかろうか?と思い当たった。

ポール・ニューマンは58年には同じ監督で”長く熱い夜”を、同年にはエリザベス・テーラーと”熱いトタン屋根の猫”(テネシー・ウィリアム原作の戯曲)、と何れも評論家からは絶賛される演技を見せている。アクション映画にも出るようになったのは66年の私立探偵役、ルー・ハーパーの頃からじゃなかったか?

映画の終盤、牛は居なくなりハッドは一人農場に取り残される、そんな状況下でも恐らく酒は止めないんだろうと思わせるエンディング、さて彼に救いはあるのか?本筋から見てももうこれっきゃないだろうと思わせるハッドの人生、見事な映画だ。

まったくアクションシーンもなくひたすら出演者の個性と演技で見せる作風、今どきはこんな展開はダメなんだろうか?最後まで目を離す事なくしっかりと”完鑑賞”でした。やはり秀作は夜飯に勝る、気が付いたら家内が怒ってた。映画の中でアルマ、、と魅入っていたのに振り向いたらイカルスの家内だったとは、、トホホ、。