”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”ノーカントリー”(07年)

このコーエン兄弟の監督によるクライム・サスペンスは原作が翻訳出版された際には原題の”No Country for Old Man”に”血と暴力の国”と言う立派な邦題が付いていた。なのに配給元では”老人”を取ってしまい”ノーカントリー”だけで配給された。

原作が翻訳された時点で訳者もそれなりに熟考し全編を訳した結果付けられたタイトルだと思うのだが映画化されそれが公開となると動員が予想される観客の世代に合わせてしまうのだろうか?そんな例が他にも”リバー・ランズ・スルー・イット”(原作が翻訳された時は”マクリーンの川”)、”誘拐の掟”("獣たちの墓”)、等々、、。翻訳時の邦題の方が良い場合が多々ある、と思うのだが。

以前、西部劇と言うジャンルには正統古典派、アクション満載編、マカロニ、そして近代西部劇と区別出来ると書いたがこの”ノーカントリー”はまさにその近代的でしかもクライムサスペンスと言うオマケまで付いて来る、。しかも監督がジョエルとイーサン兄弟でアカデミー賞でも作品賞を含む8部門にノミネートされた秀作である。

背景になる時代設定は80年代のテキサスで麻薬取引を主題にした犯罪映画、かなりドギツイ映画になっている。同じ麻薬捜査をメインテーマにした”ボーダーライン”とは違う緊迫度があって此方は恐ろしいアントン・シガー(ハビエル・バルデム)の不気味さがその度合いを一人で受け持っている。

 

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ベトナム帰還兵のモス(ジョッシュ・ブローリン)はある日狩猟へ出掛けるが帰路、大きな木の下で瀕死の重傷を負ったメキシコ人らしき人物に出会う。近寄って見るともう息も絶え絶えで助からないと見える。そのすぐ傍には米ドルがごっそり詰まったバッグが、、どうやら麻薬の取引が上手く行かなくて買う側と売る側が撃ち合った結果双方が殺し合った様子だ。

そんなショッキングな出だしでモスは大金の入ったカバンだけを手にそのまま家へ帰ってしまうが死にかけたヤツが水が欲しいと呟いていた事が忘れられずに水筒を持って現場へ戻って行く。すると暗闇に麻薬取引に関与していたギャング連中がカバンを探している場面に遭遇してしまう。幸いに見止められる事無く帰って来たが残した車から身元が知れてしまうのだ、、。

そんな場面から一転、今度はシガーと呼ばれる殺し屋の存在が画面に展開する。どうやら麻薬組織から送られて来た殺し屋で先の現金回収を託されているようだ、、先の現金が入ったケースには発信機が仕込まれていてモスはそれを持って逃げるのだがシガーは何処までも追いかけて来る。

途中メキシコとの国境近くのモテルに宿泊するがそこでやっとその発信機が仕組まれている事が判るが時遅し、既にシガーが近くに迫っているのだ。そんな追いつ追われつの逃亡劇が続くのだが先々でシガーが遭遇する連中は彼が投げたコインが表か裏かで殺される運命でこの殺害場面がものスゴいのだ。

彼が使う武器と言うのが牛を殺戮するボルト銃と呼ばれる銃でシングルアクションで圧縮空気から発射されるボルトが銃弾になっている。これがこれまで映画では目にした事もないような恐ろし気な武器でシガーの不気味さに輪をかけて不気味な殺し道具だ。

そんなプロの殺し屋VSヴェトナム帰りの帰還兵、、果たしてモスはそんな恐ろしい相手を向こうに無事、行きて帰れるのか、。そんな映画で他の配役は保安官にトミー・リー・ジョーンズ、賞金稼ぎのウッディ・ハレルソン、それにモスの奥さん役でケリー・マクドナルドなどが脇を固めている。

それにしてもこのコーエン兄弟は96年の”ファーゴ”で映画界の頂点に上り詰めその後も数々の秀作のプロデューサー、監督、脚本家としてもの凄い活躍振りだ。