コレは珍しいブラジル映画で78歳になる爺さんと孫ほどに年の違う23歳のトンでる女性との交流をメインに彼らなりに人生を覚醒して行くお話、それもすこぶるハートウォーミングな秀作だ。でも邦題がチョイとばかり情けない、、そりゃ確かに”ぶあいそうな手紙”かも知れないがその内容は決して”無愛想”じゃない、むしろ究極のラブレターだと思うのだが、、。
原題の”Aos Olhos De Ernesto”と言うのはエルネスト(ホルヘ・ボラーニ)と言う主人公の爺さんの眼を通して、って事なので本来は手紙じゃなくて視線、想いの先にはと言うのが本当の意味じゃなかろうか?
今はブラジルのポルトアレグレに住む爺さんは半世紀ほど前に隣国のウルグアイから移民して来た。昔は政府ご用達の写真家だったようだが加齢と共に視力が弱くなりもはや目の前にいる人間の輪郭がおぼろげに判るものの手紙を書いたり読んだりは出来ない。
奥さんとは大分前に死別していて息子は離婚、幼い子供が一人いる。エルネストの事はジイジ呼び以前は良く遊びに来ていたようだが最近はすっかりご無沙汰だ。息子には早く実家を売ってそれなりに看護してくれる施設に入る事を勧められているのだが週一回やって来る家政婦さんの世話になりながらも不自由な目でも外出はするし自炊もやるし悠々自適の生活をエンジョイしている。
そんなエルネストがある日受け取った手紙、それは古くからの(同級生だったか?)友人の死を伝える内容で未亡人になった奥さんからの便りだった。自分じゃ良く読めないし返事も書きようがなかったのだが偶然にも階下に住むばあさんのペット犬を散歩させに来る若い女性、ビアと出会った事から彼の生活様式が激変する。
そのビア(ガブリエラ・ポエステル)は実は性悪で目の悪い爺さんの部屋の鍵を盗んだり、小銭や本にまで手を出してしまう。しかしエルネストは彼女に定期的に来て手紙を読んだりその返事を書いてくれるように頼む事になりかくしてエルネストはウルグアイに居る女性(その昔は恋仲だった)と文通が始まるのだ。
エルネストが口述してそれをビアが手書きの文章にし手紙として郵送、それも書き出しはこうしよう、こう書いたら相手はどう思うだろう、、女性が筆記した手紙じゃ相手はどう思うかとかなり真剣に悩みつつ慎重に手紙を書くのだ。
時には二人で外出して昼食、そして街中へ散歩とそんな二人の交流を背景にビアがまともな感性を取り戻して行くところやエルネストがビアを自分の身内のような扱い、今は空室になっている息子がいた部屋に泊めたりでお話は淡々と進んで行く。
エルンストは一見頑固で一徹、強面だが実は教養もあり人格者だ。そんな彼は不自由な身でありながらも思考能力はしっかりしているしビアもこの生活が満更でもない。
その辺の描写はこれが仮に舞台が日本の場合でも恐らく似たような展開でイケる気がする。そんな事を思ったらこりゃ日本でリメイクしても良いんじゃなかろうか?まあ映画終盤の思いがけない展開は日本じゃ受け入れて貰えないかも知れないなぁ~、、。
でもかなり満足出来る秀作には違いない。これは演技陣は無論だがやはり演出や脚本が重要な要素なんだろう、。丁寧にエルンストの日常を描きオレも同じようなドジを踏んでいるなぁ~、と思わせたりする。ビアも最初は胡散臭く定職もないし住む家だって無いような風来坊ながら次第に見ている側も好感を持つようになる、これ等は全て監督のなせる技ではないだろうか?
もう大分古くなるがこれまた珍しいギリシャ映画にどっぷりハマってしまった事がある。ギリシャから遥々アメリカはニューヨークへ移民して来る”メールオーダーブライド”を扱ったものだがアレもそう言えば”手紙の文通”一つでまだ会った事もない男性の元へ嫁いで行くお話だった。”恋におちたシェイクスピア”に至ってはキレイな字体で文字を書きラブレターを代書する商売がまかり通っていたっけ?
スマホやSNSでちょちょっと指の操作で文字を送り愛の告白をしたってそんなモンは直ぐに消えてしまうのさ、と若い世代に教えてやりたい映画だった。