”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”ライク・ア・キラー妻を殺したかった男”(16年)

あああ~、、又もやこんな邦題だよ。情けない、、しかもネタバレじゃん。原題は”A Kind Of Murder"(殺人のようなもの、なので”殺人回路”でも良いのだが)、妻を殺したかった男とご丁寧にも書いてある。それに”ライク・ア・キラー、、”ってのは一体どんな思いつきなんだか??

実はこの映画はちょっと奥が深いのだ。プロデューサーと脚本はスーザン・ボイドと言う女流作家だが原作を書いたのはかのパトリシア・ハイスミスである。あの”太陽がいっぱい”その他のミステリー小説を世に送り出している当時は売れっ子作家で彼女が54年に発表した3番目の長編小説なのだ(合計では22作品ある)。

原作のタイトルは”The Blunderer"と言って””ドジなヤツ”、、と言うような意味でこの映画も当初企画立案から撮影が開始されるまでそのままのタイトルだったのだが公開間際にこのタイトルに変更になった。更にはこれは一度フランスでも映画化されているのだ、、、しかも”太陽がいっぱい”の後、63年にモーリス・ロネが主演だった。残念ながら何処にも記録さえない、、タイトルは”Enough Rope”(ロープで足りる)、フランス語では”Le Meurtrier"、、マリナ・ヴラディも出ていたようだ。

イメージ 1この16年度版は主演のウォルターにパトリック・ウィルソン、奥さんのクララにジェシカ・ビール、奥さんを亡くして途方に暮れているおっちゃん、マーティがエディー・マーサンと言う配役で実に”パトリシア・ハイスミス”らしい映画に仕上がっているのだ。

プロットも良いし犯人が最後まで判らないミステリーの要素がグイグイ引っ張ってくれる。仮にもうちょっと知名度のある人たちが配役されていたら日本でも公開されたんだろうがこのキャスティングじゃ配給元は勝負しないだろうな、、こんな所にもシネコン最盛期で街の独立系がなくなるともう残念ながら単独での公開は覚束ないだろう。まあそれならレンタルDVDのラインアップや有料配信でもしてくれりゃ良いのだが、、。


ストーリーは、、1960年、建築設計家として成功しているウォルター(P・ウィルソン)は短編小説を書くのが好きで新聞からの切り抜きやらをスクラップブックに貼り付け大切に保存している。最近起きた”人妻惨殺事件”にも興味を惹かれ報道される度に切り抜きを収集しているのだ。

奥さんのクララ(J・ビール)はセレブ生活が身についていてアルコールを手放せない生活振り、結婚して4年になるが子供はおらず一見毎日をエンジョイしている風だが、、疑心暗鬼の固りでウォルターが何処へ何しに、誰と会ったのか気になってしょうがないのだ。やきもちが講じてくると友人の友人でも自宅で開いたパーティで話しているだけで”アレは誰?””今度は何時会うの?””もう寝たの?”とうるさいのだ。

一方のマーティ(エディー・マーサン)は店舗からして古臭い古本屋をやっている。奥さんを亡くして流石にしょんぼりしているのだが、、刑事はそうは見ていないようだ。どうやら奥さん殺しの容疑がかかっているようで刑事さんがやって来ては質問攻めになる。

そんな彼らの日常が描かれて進んで行く、、見ている側はこの時点ではマーティの奥さんが殺されたらしいとは判っても状況も動機も何も判らないのだ。お話が大きく動いて行くのは、、ウォルターとクララの仲が極端に悪くなって行くあたり、、家中にあったクスリを飲んで自殺未遂まで起こす始末、辛うじてウォルターの発見が早く入院治療するだけで自宅へ帰ってこれたのだが、。

ウォルターは時期を同じくしてマーティの古本屋へ出掛けて行く。古いフランク・ロイド・ライトの建築関連の本を探していると言う口実で実際妻を亡くした男とはどんなヤツなのか観察する為だ。警察が思うように彼が真犯人とかは一切思いつきもしないのだがその訪問が後半問題になって来るとは全く予想もしていない。

クララは退院して何時もの生活に戻るのだが以前パーティに招待されてやって来たエリー(ヘイリー・ベネット)とウォルターの仲を疑っている。無論最初問い詰められた時には何もなかったのだが問い詰められる毎に、、ウォルターも気になってしまい”う~ん、誘ってみるか?”と寝ている子を起こすようなクララの言動に反論しているうちに本当にそうなっちまう、そしていよいよクララは”もうアンタなんか出て行ってっ~!”となり言いつつ自分の方から家出をしてしまうのだ。

そして長距離バスに乗って出掛けた筈のクララが翌朝何と鉄橋下に死体となって横たわっている。さあ、、ここから大騒ぎ、ウォルターはまず最初に疑われる、そして古本屋のおっちゃんも、、二人に共通するのは妻を亡くしたやもめ同士、、って事で刑事さんは一気に色めき立つのだ。しかもウォルターのアリバイがあやふやで、、エリーとの関係を警察にも供述してないのでクララが家を出てから死体で発見されるまでの辻褄が合わないのだ。

そして一気に終盤へ向かってまっしぐら、さて真犯人は、奥さん二人を殺したのは同じ犯人なのか?連続殺人?それとも全然関係ない二つの事件で一つは事故?なのか、、ともう最後の最後まで引き込まれました。やっぱり最後まで犯人が判らないミステリーは極上だ。

この邦題だけは最悪だぞ、、今年見た映画の”最低邦題ランキング”でトップファイブに入賞するのは間違いない。ねえパトリシアさん、、”Like A Killer, A Man Who Wanted To Kill His Wife"何て笑っちゃいませんかぁ??喜劇じゃないんだから、、。