”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

身近なハリウッド

人間長い事やっていると思いもかけぬ場所で思いがけない人に出会ったりする事は誰にでも経験があると思う。普段銀幕でしか見られない憧れの人にでもお目にかかれりゃそりゃもう有頂天、更には余り知った顔でもないのに一瞬にして十年来の大ファンに転ずる事も珍しくないものである。思い返してみるとこのおっさんにもその輝くような”瞬間”が何回となくあったのである、、、。

その第一弾はビバリーヒルズのとあるホテル(”プリティーウーマン”の舞台としても登場)所用を終えてエレベーターを降りロビーから回転ドアーを避けて開きのドアーを開けると向こう側から恰幅の良い長身の紳士がツイードの背広姿で颯爽と入って来るではないか、思わず右手で開いたドアーを支えてその紳士が入り易く支えていると”Much Obliged”の一言。最初サンクスとかサンキューと言われるのか、、と思ったのでその返答にはチトまごついたが何とその紳士はかのベンハー氏ではないか。

その”セリフ”もそうだが身体全体から出るオーラと言うか、重厚さと言うかたったその一言でカッコイイーなんてものでは表現し切れないほどの圧倒的存在感を感じてしばし呆然としてしまった。大画面そっくりのチャールトン・ヘストン氏、それまで殆どの出演作品を見ているが余りにも大きいのにも驚いたものだがこれほどの大物は普通にサンキューなんて事は言わないんだとこれまた感心しきり、束の間の英語の勉強になった次第であるが男の眼から見てそれ程魅力的に見える場合、果たして異性から見たらどんな印象なんだろうかと思うと神様は不公平だと暫く寝付けない夜が続いた、、ただ背丈があるだけでは伊達にハリウッドでは映画俳優としてはやっていけないんだろと妙に納得、元々好きな俳優ではあったがそれ以降も主演作は全て見ている、、。

ところ変わって今度は都内のあるホテル。未だ夕食前のホテルとしては一番に忙しい時間帯、ある客室から”支配人を呼んで、”+”何でこのホテルは英語が通じないの、?”と交換台に怒鳴り込みの電話。交換台も手に負えぬと転送して来た電話にお役目とあれば、、とイヤイヤ返答、おっとり刀で客室へ平身低頭その理由を伺いに重い足を引きずって出向いて見ると、、。何とその怒りまくっている女性とはあの憧れの今はおばさん、昔は美貌のローレン・バコール女史ではありませんか。

実は電話が交換台に入った途端、宿泊者名が提示される仕組みになっているのだが若い女性だけの職場では残念ながらVIPたって”一体それ誰?”で処理し切れなくて回って来たと言うのが真相でそれが誰だか知っているおっさんは(当時は若者)は意気揚々、正々堂々、職権乱用で怒鳴られようが殴られようがお目にかかれるとばかり喜び勇んで出向いたものである。そこで良く伺ってみると日本へは自伝出版を記念して出版社のおんぶで来日したもののその日は出版社も発売元の関係者、通訳さんにも見放され一人ぼっちとか、、来日早々で今夜はごゆっくりとの配慮なのだろうがご当人はお酒の影響も多少あってか至ってご不満、そこでルームサービスをと思ったそうだがいくら何でも呂律の回らないハスキーボイスでは注文を聞く側も何回となく聞き返してしまい”何さこのホテルは私の英語が判んないの?”になったと言う事であった。

ここまではもう勝手に時効だと解釈しているが忠実なるホテルマンゆえそれ以降のやり取りは省くがしっかり注文を聞いて暫く聞き手に徹したところで東京の片隅、一介のホテルボーイにも大ファンがいる事を感じて貰い15分後には至極満足そうに微笑んでくれたのがとっても印象的、至福の時を過ごす事が出来たのである。職場では余りに長い事帰って来ないのでこりゃ大コンプレインかはたまた新聞ダネかと気を揉んだそうな。ああ、そんな事はそっちのけで本音はもう30年くらい前に会いたかった、、、と暫く夢に見てたもんな~。今でも”You know how to whistle, don't you? Put your lips together and blow.”ってセリフが忘れられません、、ご本人にとっても生涯忘れられないセリフだって事はその晩確かに承りました。

その後かなりの時間の経過があるが今度もとあるホテルでの事。娘と一緒にロビーを横切り玄関へ向かおうとすると今チェックインを済ませたのか長身、細身の若者がGパンにジャケット姿で此方に向かって来た。すれ違うや否や並んで歩いていた娘の歩調が乱れ、棒でも飲み込んだみたいに直立不動、そして囁くように”キアヌ、、、”と消え入るような声。ええっー、何かの発作でも起こしたのかと振り向くと何とすれ違ったその若者はキアヌ・リーブス様ではありませんか、、これには此方も娘を見る余裕もなくおっさんはビールを食らったように泡を吹く始末。

様子を見るとエレベーターホールには連れも、付け人も同行せずに一人でボタンを押して待っているではないか娘をそそのかして握手でもして貰いに行けば、、と言ってはみたものの足が凍りついた状態で一歩も動けずそのうち周りに一般の乗客も集まり出し人前では流石言い出す事も出来ず結局そのままあえなくチョン、今だにあの数秒が惜しまれる次第である。娘に付き添って握手でもしてりゃオヤジの顔もたったのに、、と後悔の念で一杯の数日であった。

こうして見てみると出会いの可能性が一番ありそうなのはホテル、機内(ファーストクラス限定)、そして街場の有名レストラン辺りであろうか。追っかけでもない限りそんな場所をうろうろする気もわかないが思わぬ場所で思わぬ人に会えた喜び(?)はなかなか忘れられるものではない。