”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”砂の器”(74年)

松本清張の原作、確か1960年の初めころに出版されている。新聞に連載されていたものを読んだのかアレは文庫だったのか不明だが典型的な推理小説プロット、それも犯人捜しより事件を担当する捜査員の地道な活動が本筋になり一気に読ませる本だったような、、森村誠一の作風と似て有名人となった犯人がその過去を悔いて、或いは抹消する為に殺人を犯す想定はこの作品以降常套手段になっている。

 

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公開されたのは有楽町にあった本来は洋画専門館として知られる有楽座だった。”アラビアのロレンス”も当時、此処で上映されているのだが邦画を上映するのは珍しく、プレミア試写として上映された記憶がある。

橋本忍がプロデューサーとして最初は松竹へ企画を持ち込むも、集客は困難だろうと言う理由で断られ、東宝東映大映もしかり何処も乗り気ではなかった。何故集客が困難だ、、と判断されたのはか不明だが確かに推理小説としては評価は高くても一般的な映画のヒット要素を持っていたとは思えない、。

そんな状況下、自分のプロダクションを設立し当時、東宝の重役だった藤本真澄口説き落としたらしい、そんな理由から通常は東宝が配給を請け負った洋画を専門に上映していた館でのプレミア公開が決まった。まあそれでも松竹との垣根は取り壊され最終的には制作費を折半しているそうだ、。

原作を読み終えた後の率直な感想は推理小説としてはそれ程素晴らしいと言う思いはなかった。それが映像化されると全く違った印象に、、文章で読み進む今西、吉村両刑事の行動を限られた時間に映像化して地道に捜査にあたる描写は実に見事だった。

 


ピアノ協奏曲 「宿命」 第一楽章2.flv

 

文章からは彼らが推理を働かせ、苦悩する様子をはっきりと思い出す事が出来る、でもそれを上映時間143分に集約し映像化した野村芳太郎監督以下、脚本から撮影のスタッフ、そして背景に流れるテーマ曲、”宿命”、をジャズ音楽家の菅野光亮がもうこれ以上はあり得ない、文章では絶対に不可能な音響効果として貢献しているのだ。

そして映画には見どころが満載され特に終盤、今西刑事(丹波哲郎)が若い吉村刑事(森田健作)と捜査会議で一同を前にどうやって犯人に辿り着いたか、そして何故この犯罪が行われたのか、父親との関係から彼ら親子の生い立ちを得々と語る場面は涙なしに見れる場面じゃない、くり返し、くり返し、、、くり返し、くり返し気が付いたら又、見ていると言う名場面である。この短い場面にこの映画が集約されている。

その後、TVドラマ化も何度となくされているがこのオリジナルは超えられまい。イヤ、超えちゃいかんのだ。