久し振りに遭遇したヒッチコック監督の名作だ。字幕付きで見るのは恐らくうん十年振りじゃなかろうか?映画はサスペンス&スリラーの巨匠としては”サイコ”や”鳥”等の恐ろしい恐怖映画とは違いむしろスパイ系のお話でまさに”間違えられた男”がエスピオナージに巻き込まれてしまうと言う設定だ。
タイトルになっている”North by Northwest”は現実には方位としては存在しない方角なので監督は実際には何を言わんとしたのか、個人的には劇中、空港での場面に今はもう存在しないノースウェスト航空のカウンター前でのやり取りがあり、その場面を引っ掛けてタイトルを”北に向かう”、”ノースウェスト航空機で、”だったんじゃなかろうかと解釈している。
この映画を再見してかのイアン・フレミング爺(007シリーズの原作者)はやはり映画化に際してジェームス・ボンド役をこのケイリー・グラントをイチオシ俳優としていた事が理解出来る。原作ではそのボンドが登場する場面、”188cmと身長が高く、黒髪で頬に傷跡、身のこなしが優雅で年齢は38歳、、キングスイングリッシュで苦み走った冷酷そうな唇で女性好き”と記述されている。最終的にはショーン・コネリーに落ち着いて映画化されたのだがそのショーン・コネリーのボンド役には原作者としても大満足だったそうな。
劇中ケイリー・グラントが演じるのは広告代理店のやり手、二度の離婚歴があるのだがスパイとは遠く離れた存在だ。それがひょんな事から悪党組織と派遣されて来た殺し屋二人に間違われ拉致されてしまう。その舞台はニューヨークでプラザホテル内、其処から思いもしないスパイ合戦にハマってしまうロジャー・ソーンヒル氏(C・グラント)の”ノースウェスト”行きとなる。
お相手はヒッチコック監督お気に入りのエヴァ・マリー・セイントで彼女は悪玉、ヴァンダム(ジェームス・メイソン)の情婦役でイヴ・ケンドールだ。ロジャーは郊外の豪邸に連れ込まれ白状しろと強要されるがナンの事かさっぱり、最後には無理やりウィスキーを飲まされ飲酒運転を装い崖から転落して一巻の終わり、となるところを窮地を脱するが警官に酔っぱらい運転容疑で身柄を確保されてしまう。
確かに今見れば映像の信ぴょう性やスピード感はなく早送りの撮影だがプロットが実に巧みで見ている側は理不尽なソーンヒルの扱いに憤慨するし終始ドキドキさせられる。そんなソーンヒルはNYの国連本部へ出向き先に連れ込まれた豪邸のオーナー本人に事情を問いただそうとするが尾行して来た殺し屋の一人にオーナーのタウンゼント(因みに演じたのはフィリップ・オバーでかの”地上より永遠に”でホームズ司令官を演じていた)が殺害されてしまいその場面が新聞のトップで報道されてしまう。そして今度は自身が警察に追われる立場に、、。
そして追われながらも残された手掛かりを手繰ってシカゴへ向かう、警察の手配を逃れる為に列車で行くのだが其処へやっとこさ登場して来るのがイヴ(E・M・セイント)である。この出会いの列車内でのシーンは実に興味深い、、追って来た警官から身を隠す為に車内の個室のベッドに隠れるがその後、食堂車に移り会話の中で、イヴが I never discuss love on an empty stomach と言っているし字幕にも”空腹じゃ愛は語らない”と出ているがイヴの口の動きから察するにこれは I never make love と言っているのだ。要するに”空腹のままセックスはしない”って意味なのでこのイヴってのはかなりススんだ女性って事が判るのだ。
後年、007の”カジノロワイヤル”でこっちはエヴァ・グリーン扮するヴェスパーがジェームスと交わす会話がこれまた実にドキドキさせるものだったが監督のマーティン・キャンベルは”北北西に進路を取れ”のこの列車内場面を見ているんだろうな、、第一両方とも最初に女性が登場して来るのが列車内のシーンだし意味深なセリフまでそっくりだ。別に知ったからと言ってオレの寿命が延びる訳でもないのだがこうして何回となく同じ映画を見ているとセリフじゃ固有名詞なのに字幕では全然違っていたりと毎回楽しむ事が出来る。やっぱり”オールド・シネマ・パラダイス”って事に落ち着くようだ。