”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”誰よりも狙われた男”(14年)

この映画は以前、後半半分を先に見てしまいスリリングなスパイものなのに我ながらバカな奴だとずっとジクジクしていた。そしたら先日やっと再放送が、慌てて録画して今度はちゃんとオープニングから見る事が出来た。

原作を書いているのはあのジョン・ル・カレで”A Most Wanted Man”として出版されたのは2008年、彼の得意とする冷戦後の”米英ソ独”の絡み合った方程式はそのまま健在だが其処へテロ組織が介入して来るのだ。

映画では冒頭、ハンブルグの港へ何処からともなく一人のむさ苦しい男がやって来る。これがイッサと言うチェチェンからトルコ経由で密航して来た男でタイトルにあるように”誰よりも狙われた男”である。

 

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そして真打登場、映画では実に地味でその組織の存在さえ何処の政府にも認めて貰ってない(まさにイーサン・ハントが所属するIMFみたいだ)組織でオヤブンがギュンター(フィリップ・シーモア・ホフマン)である。その組織とはテロ組織壊滅に携わる部署で所員を抱え連日連夜地味な捜査を遂行している。僅かな手掛かりと買収している情報源から入って来る些細な報告を元に捜査をしセル組織がどうやって大掛かりなテロ集団へ繋がって行くのかと特定する役目だ。

冒頭の一件、ハンブルグ港へやって来たイッサは市内に違法滞在するトルコ人家庭の世話になり人権派、弁護士に会いたいと模索中であるとの情報を得る。この時点ではどんな展開になるのか一切不明、但しこのイッサと言う人物はチェチェンからは捜査対象人物として知られトルコでも刑務所に収監されていた事が判る。

しかし何処までも地味な活動で映画らしい派手な展開やスピード感ある捜査とは全く違うのだ。それがあたかもドキュメンタリー映像が如く画面に展開されるので本当のスパイ活動なんてこんなモノなんだろうと、、妙に納得させられる。

ジョン・ル・カレがこの原作を書くに至ったのは実は実話に基づいている。冒頭出て来るイッサはムラット・クルナズがモデルで4年半も拷問付きでグアンタナモへ幽閉されていた人物である。実際にはパキスタン訪問中に逮捕され最終的にはアメリカのCIAへ引き渡されたものだが容疑はテロ組織への資金提供と共謀と黙されていたものだ。

映画の中盤でそのイッサの本当の目的が判明するしそれが真実だったので4年半も幽閉されたのちに釈放になった事が判るのだ。この辺りのジョン・ル・カレの想像力と言うか創作力は素晴らしい、。それを見事に映像化した監督の手腕にも感心するがこれが遺作となってしまったフィリップ・シーモア・ホフマンが実に巧い。彼の部下としてスパイ活動に従事するのがロビン・ライト、そして人権派弁護士として手腕を発揮するのがレイチェル・マクアダムスと皆さん実に魅力的だった。

本物のスパイに知り合いもいないしこれからも知る事はないだろうが007やミッション・インポッシブルシリーズがアクション満載のスパイ映画としたらこっちはあくまでも実物に近い想定で制作されたスパイ活動の実態ではなかろうか??