”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”ダイヤルMを廻せ!”(54年)

言わずと知れたヒッチコック監督の秀作でグレース・ケリーが初めて抜擢されたミステリー舞台劇、、と言っても良いだろう。今時”ダイヤルM”とか言われてもそもそも電話ってのはプッシュフォンだべ、、と言う世代には理解不能だろう、しかも”M”を廻すったってそんな表記があるのか?とまごつくわ。しかしこれはかのエリザベス・テイラーの主演作品”バターフィールド8”と同じでその昔は1~0の番号表示に夫々1にはABC、2にはDEFと表示されていてバターフィールドとは電話の所在地、住所が表記されていた。

 

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なのでダイヤルMは6に相当するんだがこの映画ではそれは本題とは関係ない、単に殺しの”Murder”から頭文字の”M”を取ってタイトルにしていたようだ、。確かにダイヤル式の電話機が重要な役柄を演じているのだが、ヒッチコック監督としては”合鍵は語る”ってタイトルの方が理にかなっている気がする。って事は”A Key For Murder"って事でも良かったんじゃなかろうか?

本編は殆どが舞台劇の様相でカメラが外へ出る事はない、登場人物もマーゴ役にグレース・ケリー、夫で元テニス選手がトニー(レイ・ミランド)、マーゴの愛人にマーク(ロバート・カミングス)、ハバート警部にジョン・ウィリアムズと彼ら四人だけがメインキャストだ。

登場人物が少ない分、脚本が良くないと面白くない、その主演陣が実に見事に最後の最後まで見る人を引きずり回してくれるのだ。殺人を企むのは夫のトニー、美貌で資産家の妻、マーゴの浮気を疑っている。そのお相手はアメリカ人でミステリー作家のマークだ。そこで一案、大学時代の学友だが性悪だったスワン(アンソニー・ドーソン)を呼び込んで大金を積み妻の殺害を計画する。

ここまでトニーが計画をスワンに打ち明け恐喝まがいの手段で殺しを請け負わせるのだが実に的確な方法で見ている側はこりゃ上手く行くんじゃなかろうか、と信じ込ませる程に見事な演出だ。まあ普通ならこんなマーゴのような美女で金持ちなら浮気を離婚の理由としてしっかり慰謝料を取れば良いのだが、それだとヒッチコックの出番が無くなってしまう。

そしていよいよ殺人劇の決行となるのだがこれが又、実に見事でスリリングな設定だ。留守宅に一人いるマーゴを狙ってスワンにアパートへ忍び込ませあくまでも強盗犯の仕業としてマーゴを殺害させようとするのだが、。

その時間、トニーはアリバイを工作し出先で愛人のマーク共々友人たちと会食中、そして寝ているマーゴを電話で起こし、居間にある受話器を握っている所をカーテンの陰に隠れたスワンに首を絞めて殺害させようとするのだが事はトンデモない方向へ、。この辺りの想定外の展開はヒッチコック爺の独壇場だ、そして実に見事に予想も出来ない方向へお話がどんどん進んでいく。

過去に見ている映画だが今回気が付いたのはトニー役のレイ・ミランドはちょっとした角度からだと妙にジェームス・スチュワートに似ている。”裏窓”の時のコンビが再現されている雰囲気だ。それにマークを演じたロバート・カミングスはあの映画、”ベン・ハー”で憎きメッサラを演じたスティーブン・ボイドにそっくりなのだ。以前はそんな事は全く気にならなかったのだが特に今回は二人とも似ているのには驚いた。

ハバート警部を演じるジョン・ウィリアムズが如何にもイギリス紳士然とした風貌と雰囲気で後半は重要な役柄を演じる。見ている側はどんでん返しがある訳でもないし法廷審理の場面で冷や冷やする訳でもないのだがやはりミステリー劇としては素晴らしい。それにアリバイ崩しと言う訳でもないので最後は決め手になる物証をどうやって証明するか、、いや~、この辺りは最後まで満喫出来るヒッチコック劇場だった。