”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”マンチェスター・バイ・ザ・シー” (16年)

この映画は前回見た後で何故邦題を”海辺のマンチェスター”にしないのか、と疑問を呈した事がある、。でも良く調べてみたら原題の”Manchester By The Sea”と言うのはそのまま町の名前なので”海辺”にしてはいけなかったのだ。情けない事に公開から6年が経過してやっとその邦題の真意に気が着いたと言う訳だ。

映画はその実在する町、”マンチェスター”が背景だが主人公のリー(ケイシー・アフレック)はボストン近郊の住宅街で住み込みの管理人兼便利屋をやっている。担当する集合住宅2棟で戸数は判らないがそれこそ雪かきからゴミ出し、簡単な配線やら配管修理まで(この辺りの描写は妙にオレとダブる)、中には理不尽な事を言って来る住人や居丈高にリーをこき使う連中もいるが寡黙で口下手なリーは悪態をついては住人としょっちゅう揉めている。

 

 

そんなリーの元へある日実兄が死んだと連絡が入る。以前から心臓に難病を抱えていて長生きは出来ないと診断されていたものの大分以前に出て行って離婚した奥さんと一人息子のパトリック(ルーカス・ヘッジス)がいる。

リーは病院へ駆け付けるがボストンからは一時間半も掛かり臨終のベッドには立ち会えなかったが後日、弁護士事務所で開封された遺言状には16歳になる息子のパトリックの後見人としてリーが指名されている事が判るのだ。

残された釣り船、家、家財道具一切の権利、そしてパトリックの養育費はちゃんと相続されるように手配はされているのだが息子の面倒を看る事になると今の仕事を辞めてボストンから越して来る事になる。逆にパトリックを”マンチェスター”へ連れて行くには部屋は狭いし本人が高校生活の真っ最中で絶対に越したくないと拒否されてしまう。

 

 

そんな思いがけない展開から映画はフラッシュバックを通じてリーの過去へ遡って行く、、其処にはまだ小さいパトリックが居て兄と三人で船に乗り魚釣りに出掛けた事やパトリックのママがアル中で家の事は一切やらず遂には家出してしまった事、更にはリーには愛妻のランディー(ミッシェル・ウィリアムズ)との間に三人も子供いて幸せな結婚生活を送っていた事も判って来る。

なかでも衝撃的な事件は仲間内で自宅で酒盛りをした後、全員が帰った後に一人飲み足りないリーは徒歩で近所の酒屋へ酒を買いに行き徒歩で20分かけて帰宅して見ると家が激しい炎に包まれていたのだ。どうやら出掛ける前に暖炉へくべた丸太が転がり出て出火したようで一階で寝ていたランディーは救助されたものの二階に居た子供たち全員が犠牲になってしまったのだ。

それがきっかけでランディーとは上手く行かなくなり離婚、リーはいまだにその時の後悔と自責の念から自暴自棄で寡黙な殻に閉じ籠ってしまっている。そんなリーが甥のパトリックの後見人として生活を支えて行くのは至難の技である。

映画はその後、パトリックが密かに実母とメールでやり取りをしていた事やランディーは再婚して一人息子に恵まれている事、、そして善き友人でもあるジョージ夫妻の献身的な協力でこの二人を支える姿が描かれて行く。

リーもやっと過去を振り切ってこの甥っ子と二人で自活していく決意をするのだがこの人生再生とも言えるケイシー・アフレックが実に巧い、兄貴のベン・アフレックの陰になってしまったがこの映画では見事にオスカーで主演男優賞を受賞しているし兄貴とはチト違う路線で活躍中である。

制作費だって850万ドル程度しか掛かっておらずプロデューサーにはケネス・ロナーガンマット・デイモンが名を連ねてはいるが”TV用映画”(Amazonが配給)と言っても過言ではない程の小品である。しかしその映画の”実力”たるや素晴らしいものがある。たまにかも知れないがこんな映画に出会えるうちは映画ファンを献上する訳には行かないぞ。