”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

美貌の女スパイ、所属は”国際諜報局”

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この二日ばかり、この美貌の“女スパイ”が忘れられない。相対するはマイケル・ケイン扮するイギリス情報局のハリー・パーマーで演じているのはスー・ロイドと言うイギリスの女優さん、映画は“国際諜報局”(64年)である。確か国内公開時は原題をそのままカタカナ表記して“イプクレス・ファイル”だったと思うのだが今回改めて調べたら“国際諜報局”になっていた。
 
007シリーズのヒットに興じて制作されたスパイものだが此方は原作がレン・デイトンイアン・フレミングとは違い“派手”なところなど一切ない“質素”なスパイ映画である。ハリーはそりゃ無類の女好きだしグルメ、ここまではジェームス・ボンドに通じるところがあるのだが新しい任務に着く時に“これで給料は上がるんですか?”と上司に聞いたり諸経費の手続き方法を確認するなどスパイあるまじき問答が続く。しかも近所のスーパーマーケットで買い物かごを押したりしているところからして誠に庶民的なスパイである。
 
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制作者はハリー・サルツマン、この人はアルバート・ブロッコリと共同で007を制作しシリーズ化したプロデューサーなのだが荒唐無稽な展開を脱皮してボンドとは対極にいる地味な情報部員を描きたかったとか、、まあレン・デイトンの原作を気に入ったと言う事らしいが、。
 
主演のマイケル・ケインは当時32歳とまだ若い、実直そうながら頑固そうでしかもメガネまで掛けている、当時スパイの主役がメガネを掛けているって事は皆無だったのでいったい殴り合いになったらどうするのかと余計な心配をしてしまった、。殴り合う前にちゃんとメガネを外して胸のポケットに仕舞うって事でもやもやしていたのが晴れた。それとこの女スパイ、ジーンとの絡み、、彼女が“彼方は46時中メガネを掛けているの?”と問いただす場面、ハリーはそれに答えて“イヤ、寝る時は外すさ”、、そこでジーンがおもむろに彼のメガネを外してやる、、具体的に描かなくても暗にその後の展開を観客にそっと教えると言う洒落た演出もあった。
 
このジーン、情報部ではハリーより先輩なのだがご主人を東京で亡くした後、上層部に抜擢され今度は自分がスパイになった経緯が語られる、実はハリーの直属の上司から新任のハリーを見張るように言いつかって送り込まれたのだが結局ハリーとは良い仲になってしまう。こんな魅力的なスパイなら二重でも三重でも拉致でも誘拐でも拷問にでもかかっても良い、、まあ結果、ハリーもそうなるのだが、、、。
 
展開はイギリスの著名な科学者が相次いで不可解な行動をとり始める。なかでも著名な教授が車内から拉致され護衛の死体が駅構内で発見されて情報部は色めき立つ。2ヶ月も人家を見張る地味な仕事から上司に抜擢されこの捜査班に加わるハリー・パーマー、早速独自の捜査を開始する。そんな出だしで全編快調、彼の暮らしぶりからロンドンの街角や西東、入り乱れてのスパイ合戦、敵のアジトと思われる場所から発見された“イプクレス・ファイル”と記された録音テープの切れ端、これが拉致された科学者たちを洗脳する為に使われていたテープだと判明、そしてその敵との金銭での人質交換、携帯電話のやり取りやGPSだのコンピューターを使っての追跡から大掛かりなカースタントやアクションも何もないがじっくりじわじわとスパイの世界に引き込まれて行く。もう半世紀も昔の映画だが昨日今日制作された映画よりずっとずっと、ずーっと秀作だ。
 
ハリー・パーマー・シリーズとしてこの後に4本制作されているのだが、、残念ながらドレもこの一作を超える事は出来なかった。勿論このスー・ロイドのお蔭ですが、、。マイケル・ケインより6歳年上でこの映画では魅力満点の38歳、映画ではピンク・パンサー・シリーズにもちょこっとだけ出ているが殆どがイギリス国内でのTVシリーズなどの活躍に終始しておりお目にかかれるチャンスはない。例え兄弟国のオーストラリアでもこの頃のイギリスのTV番組はおいそれとは見れないのが実に残念だ。
 
こんな人に”彼方もスパイになってみる?”ナンて言われていたら絶対にホテル屋なんかにはならなかっただろうな。