”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”秋刀魚の味”(62年)

どうにもガックリな映画を見た後の処方箋は良薬、、じゃなくて”良作”に限る。最初に見てからもう30年以上が経過しているのだがその秀作は英語のタイトルが”An Autumn Afternoon”とか、、”秋の夕暮れ”とでも訳すかな、、でもオリジナルの邦題は”秋刀魚の味”である。
 
イメージ 1当初はサンマを漢字で書くと秋刀魚かぁ、、と思ったものだがこれには独特の意味が隠されている、それが理解出来たのは封切られた62年ではなくかなり年月が経過してからだったと記憶している。監督は世界の小津安二郎、60歳で亡くなった名監督の遺作になる。
 
今さらだが演技陣が凄い、主演の笠智衆を始め若々しい岩下志麻中井貴一のパパ、佐田啓二(やはりこの人は良かった)から岡田茉莉子岸田今日子杉村春子、、とさしずめオールスターの配役だった。
 
笠智衆が当時50代の後半、まさに還暦を目の前にしたサラリーマン寡夫を見事に演じている。愛妻を亡くして長女の路子と次男と3人で暮らす周平(笠智衆)、ずっと会社勤めをしている路子が家の面倒を見て、そのままいてくれるものとばかり現状に甘えている、、それが同級生の仲間やかつての恩師の近況に触れるにつけこのまま何時までも嫁にも行かず自宅に置いておく訳には行かないと思い始める。
 
時代設定は恐らく東京オリンピック直前の東京、長男夫婦(佐田啓二岡田茉莉子)が住むマンションが池上線沿線なので川崎か横浜あたり、それに繁華街は銀座辺りを想定しているのだろう。モノクロ画面のテレビから野球中継場面が流れており大洋と阪神戦との解説があった。打者は怪我から復帰した桑田が4番打者で阪神の先発投手がバッキーと言うからこりゃ間違いなく62年(撮影当時)の設定だろう。
 
三丁目の夕日”のCG処理とは違いあくまで此方はリアルタイムの舞台、走行中の車や電車、銀座のネオンサインや各種広告塔など、当時の様子がちゃんとそのまま背景になっている。無論殆ど室内の撮影はセットだがこの辺りは郷愁を呼ぶ、。
 
現代の映画に比べりゃそりゃセリフ出しはぶっきらぼうだし目線だって今とは大いに違う、でもそれだから演技が不自然だとかカメラアングルが違うと言うのではなく演技陣はストーリーに沿って演技をしていてカット割り毎の演技ではない事が良く判る。これがやはり小津安二郎監督の思い入れなんだろうか、、それに随所に見れる象徴的とも言える空虚なカメラワーク、かのミケランジェロ・アントニオーニ監督は”不毛の愛”をその空虚さを撮影する事で表現していたが此方はその父親の心情を何もない部屋、路子が嫁いだ後、誰も座る人のいないミシン台や部屋の奥から玄関の内側を撮影する事で表現している。
 
お話は淡々と進み、一見”山なし谷なしナニもなし”風に進んで行く、言葉には出来ない父が家族に対して想う感情、娘が父を想う気持ち、その二人を軸に長男夫婦、そして同級生同士の集まりからクラス会の開催、其処へ招待した恩師の近況、、その他が微妙なさじ加減で調理されて行く、、。
 
イメージ 2
 
此方はアメリカのIMDbサイトに掲載されている英語タイトルのポスター、煙突は父親、周平の勤務する会社の工場か、下のスチールが池上線の駅、路子と兄の同僚が電車を待つ場面。
 
劇中、えっ??と思わせる”冗談”や同級生同士のかけ合い的ユーモラスなシーンがある、、しかしこの時代、誰も彼もタバコは吸っていたしみんな実に良く飲む、。ビールから日本酒、そしてウィスキーに焼酎、、と飲み屋のシーンも多いし周平は路子に言われるまでもなく殆ど毎晩飲んでいる、、。
 
そんな周平も24歳になる路子の見合い相手を同級生の河合(中村伸郎)から紹介され路子へ伝える。最初は戸惑っていた路子だが父に”自分たちは大丈夫だから”と押し切られ遂には承諾してしまう。劇中、同窓会で恩師(東野英治郎)が出されたハモを食べながら、、”こんな美味いモノは始めてだ、、ハモとは魚へんに豊と書くんだな~、”と呟くシーンがある。食べたことがなくても流石に以前は教師だし漢字は知っている、、この解説がタイトルの”秋刀魚”にも通じているのではないだろうか??
 
そこでハタと気がついた、、最初この映画を見たときは勿論結婚もしてなかったし子供だっている訳がない、それが今回見たのは既に娘二人を嫁がせ、世代的にはこの主人公をもう追い越しているじゃないか、そりゃ身につまされるぜ。単に映画の中の話、、と言うだけじゃなく共感を呼ぶと言う事はこの主人公の世代になってみないと本当のところは理解は出来ないものなんだろう。
 
 
 
 
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
にほん映画村」に参加しています:もし気が向いたらクリックお願いします♪。