”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”ラスト・キャッスル”(01年)

イメージ 1原題もその通り”The Last Castle"なのだが、、これは映画冒頭のナレーションを聞かないとちょいと意味が判らない。それにこの邦題じゃ観客動員は無理だろうな、案の定、そのタイトルだけのせいじゃないのだが興行的には本国も合わせて制作費72億円の回収は厳しかったようだ。
 
直訳すれば”最後の砦”、するとどうも中世のお城の雰囲気、或いは西部劇??しかし映画の舞台は軍の収容所である。まあ出版された原作のタイトルがこれだから映画化にあたって変更する訳にも行かなかったのか、、でも邦題はもうちょっと捻っても良かったのでは。実際には劇中出て来る粉砕された石のがれきが重要なポイントになっているしそのがれきの山が収容されている兵士たちの心を一つにする小道具である。
 
イギリス映画だとショーン・コネリーが主演した”丘”(65年)に似た内容なのだが此方の最後の砦はすこぶる付きの良作だった。
 
映画はトップ・レベルで警備された軍の犯罪者収容所へアーウィン元中将(ロバート・レッドフォード)が収容されて来るところから始まる。収容所のオヤブンはウィンター大佐、、なので階級的にはずっと下になる。最初の自己紹介で思わず上級士官に敬礼しそうになるが”この収容所では軍の階級は一切剥奪されている”と述べるのが精一杯、、しかしこの軍部では伝説的な人物でもあるアーウィン元中将の書いた本に署名を貰うべく自身の書庫へ本を探しに行く。その間、アーウィンを案内して来た士官がオヤブンの戦場で使われる各種武器ののコレクションを見て回るのだが、、。何気なくアーウィンが”こんなコレクションは実際に戦場に出て戦った連中にはナンの意味もないんだ、、”その何気ない呟きを聞いたウィンター大佐、確かに自分じゃ戦場に出向いた事もなくもっぱら”後方支援”活動だけで軍でやって来た軍歴では返す言葉もない。
 
アーウィンが収容されるに至った理由はこの時点では一切語られず、見ている側は中将にまで出世した戦場の策略家とも呼ばれた人物が一体何をしたのか、、この”???”がずっと付いて回る。娘が一度一人で面会に来るのだが(彼女には息子もいる)、アーウィンが持っているのはこの娘と孫の写真だけ、そして奥さんの事や近況には一切触れられずこの娘との面会もどことなくぎこちない。恐らくもう面会には来ないだろうな、、と思わせる別れ。その辺りの演出がこのアーウィンはやはり職業軍人として家庭もかえりみず仕事に邁進して来た過去ではなかったのかと教えてくれる。
 
収容されている人間は全部が兵役中に起こした事件で軍法会議にかけられ判決が言い渡され召喚されている。麻薬の取り引きから上官に逆らい命令違反を犯したり果ては殺人事件まで、、ここいらで徐々にアーウィンの犯した罪が語られて行くのだがどうやらアフリカ戦地で上層部の命令に従わず結果8人の部下を失った事が原因らしい、、でもやむ得ない事情だったようだが自分では一切申し開きをせず自身がその罪を負ったような形跡がある、、。やはり中将まで昇進した人物はそれなりに人を惹きつける要素があるのか何時か囚人仲間からも羨望と信頼の目で見られるようになっていく。
 
そんな羨望を集めるアーウィンを疎ましく見る司令官のウィンター大佐、事あるごとに収容所の規律確立を唱え理不尽な要求や厳しい罰則で囚人たちに対処していたのだがこの人望を集めるアーウィン虐めをことさら強化する。しかしウィンター大佐がやればやる程にアーウィンはへこたれず対処して来るし益々囚人たちからは称賛の目で見られるようになりウィンタース大佐の思惑とは全く逆の方向へ向かって行く。
 
そしていよいよこの”ラスト・キャッスル”を守る為に全員がアーウィン元中将を先頭に立ち上がる事になる。収容されているのは全員が何かしらの罪を犯した兵士なのだがそれでも彼らの心の中には祖国に対する忠誠心、そして軍部に属していたと言う誇りがある。自然とそんな彼らの心情をアーウィンが奮い起こし、その誇りをもう一度取り戻すための戦いである。そりゃ塀の中の戦闘だから彼らには武器もなにもない、其処は名うてのチェス・プレイヤーとしても優秀で戦略を組み立てるのが本業のアーウィン、あの手この手を使いウィンター大佐が繰り出す警備兵と対等に戦って行く、。
 
そんなお話なのだがこれにはちょっと意表を突かれた、、実はロバート・レッドフォードの刑務所モノとしては”ブルーベイカー”(80年)と言う秀作があったのだがどうもこの映画とダブってしまいこれまで見過ごしていた。確かに星条旗の元にアメリカ軍への忠誠心や軍の階級組織を描いた映画でそんな作風が鼻につく、、と言う意見もあったようだが例え囚人とは言え彼らがその自身の存在を思いだしその将来に置いて更生する役に立てればそれで良いではないか、、気がついたら収容されている囚人たちを応援してたよ、、この辺りは”ロンゲスト・ヤード”(74年)仕立てか?
 
歳老いてもやはロバート・レッドフォード、、加齢と共にこんな役柄は良く似合う。若い時なら恐らく召喚されている士官兵あたりで仲間を募って穴を堀り脱獄劇かな??この映画のように自然と人望を集め、自軍にもかかわらず敵対するウィンター大佐に疎まれる役柄はこの世代にならないと出来ないだろう。
 
日本では一般公開はされたらしいのだが限定公開、そしてすぐにDVD化とか、、この映画はちと過小評価されているのではないだろうか??これは大手を振って秀作だと断言出来るのだが。
 
 
 
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