”オールド・シネマ・パラダイス”、、時々新作も

長年”映画と愛猫とオーストラリア”だったが札幌へ軟着陸し愛猫も亡くしこの新タイトルで心機一転だ。

”マイ・ブラザー哀しみの銃弾”(13年)

邦題が”マイ・ブラザー哀しみの銃弾”、、と来たか、、原題は”Blood Ties"、、即ち”血縁者”って意味なのだがより的確に表現するには”血の絆”って事になる。13年にフランス・アメリカ連合で制作されカンヌの映画祭でも上映されギヨーム・カネ監督が二人の兄弟を描いた異色犯罪映画である。実は”Les liens du sang”と言うフランス語のタイトルで(邦題は”刑事キャレラ/血の絆”)77年に映画化されていた。その時の配役はドナルド・サザランドとデイビット・ヘミングスだった。
 
この映画、何気なく見始めたのだが見終わっての感想は一言”ワンダフル”、”ブラボー”、”素晴らしい”、”限りなく名作に近い秀作”、、こんな事があるからテレビ鑑賞と言ってもバカにならないし止められない。もう仰け反る程に文句の付けようがない秀作じゃないか、、。13年にカンヌで上映され14年の3月にはアメリカでも一般公開されたのだが劇場も期間も限定、って事は普通の映画ファンの目にも触れなかった、、それが非常に残念だ。ましてや日本国内では買い付けられた形跡もなく国内上映もされていないと来たら日本では完全に未公開、、そんな馬鹿な事があっても良いのだろうかと思わずキイボードを叩いてしまった。

イメージ 1何がそんなに凄いのか、、端的に言えば人物描写それも実に丁寧に配役されている主役たち。そこへ見事な演出、脚本、、と来てプロットが巧く絡み合いグイグイと引っ張るような展開だ。ルキノ・ヴィスコンティの名作、アラン・ドロンを主演に兄弟4人を描いた”若者のすべて”をふと思い起こしたくらい、、それ程に設定が良い。

それにやはり名作の誉れ高い”アンタッチャブル”、、あの映画を彷彿とさせるような印象深いショットが続く、、。ラスト・シーンなどは見事だ、、撃たれる寸前の弟をかばい兄が後ろからその拳銃を向けているヤツを仕留める、すると倒れ込む襲撃者、その向こうに兄の顔、弟と目が合い兄がふっと微笑む、、そして取り囲まれた警官に”銃を捨てろ”と怒鳴られるのだがこの10秒余りのショットはこの兄弟だけが共有出来る”至極の時間”だ。”さらば友よ”のラスト・シーンが霞んでしまうような、、、そんな映画である。

実は最初の40分くらいを見損なった、、っで結局後半を最初に見てもう一度最初に戻って見直したのだがこれでやっと繋がりが解けた、、そして結局又、最後まで見るハメに、、その昔、日本の映画館では入れ替えがなく良い席を確保する為にワザと映画の後半から館内に入り、席を立つ人を押しのけて着席した経験があった、、そして次の回を最初から見ると言う荒技だ。それがデジャブーみたいに押し寄せて来た、、。

主演は兄のクリスにクライブ・オーウェン、弟のフランクにビリー・クルドップ、その二人の父親にジェームス・カーン、そしてクリスの元妻にマリオン・コティヤール、そして監督がフランス人のギヨーム・カネとなっている。

映画の冒頭はクリスが12年のお務めを終えて刑務所から出て来る場面、彼を迎えるのは市警察の刑事、フランクと妹の二人だ。三人揃って父親の待つ家へ帰る、、この場面ではクリスが何の罪で刑務所に入っていたのかは判らない。でもクリスはもう犯罪は懲り懲り、弟の家に同居する事にして仕事もまっとうに街の自動車整備工場へ、。

フランクは上司に”兄とは距離を置けよ”と言われるがそんな事にはお構いなし、その辺りからクリスの過去が明らかになって来る。モニカ(M.コルティヤール)との間には兄と妹がいるのだがどうやら会うのは初めてらしい、そりゃ12年も塀の向こうにいたのなら知らないだろう、、そしてレイプ犯を追い詰めて殺してしまった事も判るが子供の頃からの悪ガキで弟のフランクを見張りに立てて散々悪い事をして来たらしい、、。

しかし堅気な暮らしをしようとどんなに頑張ってもチャンスが逃げていく、ニューヨーク市の政策の一環として刑務所を出た人間を更正させるプログラムがあり格安で支援してくれる。そこでムショ仲間と共同して公園内にハンバーガースタンドを作るのだが改装が全部済み、明日から開業と言うのに市の担当者は”選挙公約だったこのプランはなかった事にしてくれ”、、、とやって来る。折角まともな生活をと張り切っていた二人は意気消沈、ガソリンをぶっかけてその改装が済んだ小屋を燃やしてしまう。

そうなるともうクリスはキレる寸前、昔のクリスに戻っていく、、この辺りのクライブ・オーウェンは素晴らしい。恐らく今までに見た映画ではダントツに良いのではないだろうか、、乱暴者ではあるが弟想い、それに妙に優しいところもあり父親に接する姿はとても犯罪者とは思えない、。そんな兄貴なのだがもう普通の生活は無理、先ず酒場押し込み事件を起こし店主、従業員を皆殺しにする冷酷さを発揮する、、更には現金輸送車強奪を計画する。

その強奪事件ではフランクに追い詰められ肩に被弾してしまうが通り掛りの車を停めて逃げ伸びる寸前、飛び出してくる弟、マスク越しだがフランクにはクリスだと判っている。しかし逮捕出来ずに奪った車が静かにフランクから離れていく、、とこれが又、大変に印象深いシーンとなっている。

フランス人の監督がニューヨークを舞台に犯罪の世界、そしてアメリカ人兄弟を見事に描いた秀作と言っても過言ではない。アメリカ人の監督が撮った映画とは微妙に違うし舞台は70年代のお話とあって車、ファッション、音楽、、、街並みがとても懐かしい。特に背景に流れる音楽は当時流行ったものばかり、これが60年代の設定だとちょっと雰囲気は違ってくるがテレビもまだブラウン菅仕込みの分厚いヤツで音楽はレコード、、電話は辛うじて押しボタンだが携帯電話はないしパソコンで検索って場面も一切ない、。我ら世代にはノスタルジーを感じるほどではないにせよ思わず相槌をうちたくなるシーンが多くある。それだけで評価が高くなったのではないのだが、、。

いや~、、映画って言う奴はこうして思いがけなくお気に入りの秀作に巡り合う、これが醍醐味か??これはゴールドクラスで大枚25ドルを払っても映画館で見たかったな、。


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